カイロ迷子事件 〜充電式湯たんぽへの目覚め〜

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女子ばかりあつまるパジャマパーティーに参加した時の思い出話です。
※登場人物は全て仮名です。

「ねえ、美咲。背中にカイロついてるよ」

目を覚ました瞬間に聞こえた親友・由香の声に、私は布団の中で硬直した。

え? 背中に? カイロが?(そう言えば、昨日つけたまま寝てたんだった)

寝ぼけ眼のまま起き上がると、リビングに敷き詰められた布団の上で、仲良し4人組のメンバーが全員、私の方を見ていた。しかもみんな、口元を押さえて笑いを堪えている。

「ほら、そこ」

由香が指差す先を確認すると、パジャマの裾から、ホッカイロのオレンジ色のパッケージが顔を覗かせていた。いや、正確には「顔を覗かせている」どころではない。完全に外に出ている。しかも1枚だけじゃない。肩甲骨あたりからも、もう1枚。

「あ、あはは...寝相悪くて...」

私は愛想笑いを浮かべながら、そっと背中に手を回した。すると、指先に触れたのは3枚目のカイロ。こいつは首の後ろ、襟元からこんにちはしていた。

「美咲、何枚貼ってたの?」と麻衣が目を丸くする。

「え、えーっと...5枚...かな」

「5枚!?」

全員が声を揃えた。リビングに響き渡る驚愕のハーモニー。

「だって寒いんだもん! 背中に2枚、腰に2枚、お腹に1枚で...」

言い訳を始めた私だったが、ふと違和感に気づいた。今、背中で確認できたのは3枚。じゃあ残りの2枚は?

恐る恐る布団の中を探ってみる。

左の太ももあたりに、何か四角いものが貼りついている。引っ張ってみると、腰に貼っていたはずのカイロが、パジャマのズボンに移動していた。

「あった...1枚」

「まだ探してるの!?」と彩花が吹き出した。

さらに探索を続ける。もう1枚、どこ? どこにいったの、私のカイロ?

ゴソゴソと布団の中を漁っていると、足首のあたりに柔らかい感触。掴んで引っ張り出すと、そこには哀れにも丸まった最後の1枚が。しかも粘着力を失って、もはや何にも貼りついていない。

「...いた」

私が力なく呟くと、もう誰も笑いを堪えられなくなった。由香は床に転がって笑い、麻衣は涙を浮かべ、彩花は腹を抱えている。

「美咲、あんた寝てる間にどんだけ動いたのよ」

「知らないわよ! 寝てたんだから!」

顔を真っ赤にして反論する私を見て、また爆笑が起きる。

「でもさあ」と麻衣が涙を拭きながら言った。「カイロってさ、こうやって剥がれるの怖いよね。私も昔、カイロが背中でずり落ちて、会社で『背中がモコモコしてるけど大丈夫?』って言われたことあるもん」

「でしょ!? だから5枚も貼ったのに、結局全部迷子になるとか...」

私は集めたカイロを手のひらに並べた。すでに冷たくなり始めている。一晩中、私の体を温めてくれるはずだったのに。(ホントは低温やけどするから、貼ったまま寝ちゃだめなんだけど、もったいなくて)

「美咲、もう充電式の湯たんぽにしたら?」と由香が提案する。「私、去年から使ってるけど超いいよ。朝まで温かいし、剥がれ落ちないし」

「充電式? 湯たんぽって充電できるの!?」

「できるの! お湯入れるタイプじゃなくて、コンセントに挿して15分くらい充電するだけ」

「え、それめっちゃ楽じゃん!」

私の目がキラリと光った。

「そう。私が使ってるの、猫型(ΦωΦ)のもふもふのやつなんだけどね」

「猫型!?」

「そう。抱っこできるサイズで、めっちゃ可愛いの。充電したら6時間くらい温かいし、周りは全部ふわふわの生地で包まれてるから熱くないし」

「それ...それ最高じゃん!」

「でしょ? カイロみたいに『あ、剥がれた』って心配することもないし、繰り返し使えるからエコだし」

由香が嬉しそうに説明する。

「何より、抱っこしながら寝ると癒されるよ。猫飼ってる気分になれる」

「猫...」

私は想像した。もふもふの猫型湯たんぽを抱きしめながら眠る自分を。カイロが迷子になる心配もなく、朝まで安心して眠れる夜を。

「しかもね」と由香が続ける。「お湯沸かさなくていいから、面倒くさがりの美咲でも絶対続くよ」

「...私、そんなに面倒くさがり認定されてるの?」

「されてるよ」

麻衣と彩花が即答した。

「ひどい! でも確かに、お湯沸かすの面倒だなって思ってた...」

「でしょ? 充電式ならコンセント挿すだけ。スマホ充電するのと同じ感覚」

「それなら私にもできる!」

私は立ち上がった。

「決めた。私、今日、充電式の猫型もふもふ湯たんぽ買いに行く」

「おお、美咲が湯たんぽデビュー!」

彩花が拍手する。

「カイロには長い間お世話になったけど...」

私は手のひらの5枚のカイロを見つめた。

「私たち、もう卒業する時が来たのかもしれない」

「なに感動的に締めようとしてんの」と麻衣がツッコむ。

「だって! 私、もうカイロが剥がれ落ちる恐怖と戦いたくないの! 会議中にカサカサ音がする恐怖にも! エレベーターで落ちる恐怖にも!」

「そんなに辛い思いしてたんだ...」

「してたのよ! 昨日だって、ここに来る電車の中で、カイロがずり落ちてないか何度確認したことか!」

私の熱弁に、みんなが頷く。

「じゃあ今日、一緒に買いに行こうよ」と由香が提案した。「ネットで買えるよ。今注文すれば明日届くかも」

「本当!? じゃあ今すぐポチる!」

私はスマホを取り出した。

「待って美咲、私が使ってるやつ教えるから」

由香もスマホを取り出し、URLを送ってくれる。

画面に映ったのは、トラ猫柄のもふもふ湯たんぽ。まん丸の目でこちらを見つめる可愛らしい表情。ふわふわのカバーに包まれた、抱き心地良さそうなフォルム。

「可愛い...これにする!」

「充電時間は15分で、最大6〜8時間温かいって書いてあるよ」

「6〜8時間!? 私の睡眠時間より長い!」

「美咲、何時間寝てるの」

「5時間...」

「短っ!」

「だって朝起きるの苦手なんだもん...でもこれがあれば、温かくて朝まで幸せに眠れるってことじゃん!」

私は興奮しながらカートに入れるボタンを押した。

「あ、でも美咲」と由香が言う。

「なに?」

「充電し忘れたら意味ないからね。カイロみたいに袋開けるだけじゃないから」

「...私、ちゃんと充電できるかな」

一瞬の沈黙の後、また爆笑が起きた。

「大丈夫よ! コンセント挿すだけだから! スマホ充電できる美咲なら絶対できるって!」

「本当に!?」

「本当に! しかも15分だけだから、お風呂入ってる間に充電終わるし」

「なるほど...お風呂上がりにはもう使える状態ってこと?」

「そう! で、布団に入る時に抱っこして寝るだけ」

「完璧じゃん!」

私は勢いよく購入ボタンを押した。

「美咲、即決早い」

「だって運命感じたんだもん」

こうして私は、カイロ依存生活から充電式湯たんぽライフへの転身を決意した。

翌日の夕方、待ちに待った荷物が届いた。

「来た来た来た!」

私は玄関で荷物を受け取ると、リビングに駆け込んで開封した。

箱から現れたのは、写真で見た通りの抱きしめたくなる猫の形をした湯たんぽは手軽な充電タイプ。 モットルMTL-W005にゃたんぽ蓄熱。ふわふわのカバーに包まれた、程よい大きさの温かみのある存在。

「可愛い...」

思わず抱きしめる。まだ充電していないので冷たいけれど、手触りだけで癒される。

「よし、早速充電してみよう」

説明書を読みながら、コンセントを探す。充電プラグを湯たんぽ本体に接続して、コンセントに挿す。

ランプが赤く光った。

「お、光った! これで充電されてるってことだよね?」

15分後、ランプが緑色に変わった。

「充電完了!?」

恐る恐る触ってみると、ほんのり温かい。いや、「ほんのり」じゃない。しっかり温かい。

「すごい...本当に温かくなってる...!」

私は感動しながら、もふもふカバーの中の湯たんぽを抱きしめた。じんわりとした温かさが全身に広がる。

「いいじゃん、これ...めっちゃいいじゃん!」

その日の夜、私は早速ベッドに入り、充電した湯たんぽを抱いて横になった。

カイロのように「ちゃんと貼れてるかな」と心配することもない。「剥がれてないかな」と何度も確認する必要もない。

ただ、この温かくて柔らかい存在を抱きしめていればいい。

「おやすみ、もふたんぽ」

私は湯たんぽに名前をつけて、目を閉じた。

その夜、私は生まれて初めて、防寒対策の心配をせずに眠りについた。

翌朝、目を覚ますと、もふたんぽは私の腕の中で少し冷たくなっていたけれど、しっかりと同じ場所にいた。迷子にもなっていない。脱走もしていない。

「...最高じゃん」

私はもふたんぽを抱きしめた。

そして静かに誓った。

「カイロさん、長い間ありがとう。でも私、もう充電式湯たんぽ派になります」

すぐにグループLINEを開いて、由香にメッセージを送る。

「由香、湯たんぽ最高! 昨日届いて早速使ったけど、朝まで温かくて感動した! カイロみたいに迷子にもならないし、充電するだけで繰り返し使えるし、何より可愛い! もう手放せない!」

すぐに返信が来た。

「でしょー! 美咲、湯たんぽ沼にようこそ(笑)」

「沼って(笑) でも本当に、なんでもっと早く使わなかったんだろう...」

「カイロ迷子事件がなかったら気づかなかったんじゃない?」

「確かに...あの恥ずかしさがあったからこそだね」

「人生、恥も役に立つってことだよ(笑)」

私は笑いながら、もふたんぽを見つめた。

こうして28年間のカイロ人生に幕を下ろし、私の充電式湯たんぽライフが始まった。

ちなみにその後、次の由香のお泊まり会で「美咲、湯たんぽ持ってきた?」と聞かれ、「もちろん! 充電器も持ってきたよ!」ともふたんぽを取り出したところ、「まさかの愛称つけてるの!?」「しかも充電器まで持参って完全に依存してる」と総ツッコミを受けたのは、また別の話である。

【完】


その日の夜、グループLINEには私がもふたんぽを抱いて眠る写真が投稿され、「美咲、完全に母親の顔してる」「もう一緒に寝られない存在になってるじゃん」というコメントとともに、またしても爆笑の渦に包まれた。

そして1ヶ月後、麻衣と彩花も充電式湯たんぽを購入し、グループLINEには4人の湯たんぽ集合写真が投稿されることになる。それぞれ違う動物柄を選んでいて、「湯たんぽ女子会」と名付けられたアルバムには、今日も新しい写真が追加され続けている。

 

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